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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和51年(ラ)22号 決定

抗告人(原審相手方)

川島政雄こと

朴載玉

右代理人

山岸赴夫

外一名

相手方(原審申立人)

白石文子こと

成日先

右代理人

小酒井好信

主文

原決定を取消す。

相手方(原審申立人)の本件申立を却下する。

理由

抗告代理人は主文同旨の決定を求め、その理由として別紙抗告理由書(一)を提出した。

よつて按ずるに

1  原決定末尾綴付の目録記載の宅地の部分(以下本件土地という)について相手方が借地権と同地上建物の所有権を取得し、原審申立に至る経緯と現在の借地条件並びに右借地と建物の利用情況についての当裁判所の判断と同一の判示をした原審決定第三丁裏五行目の「本件で取調べた資料」とあるところから同第四丁表末行までの記載とそこに引用された同第一丁裏末行から同第三丁裏三行目までの記載をここに引用する。

2  また〈証拠〉によれば、抗告人の義兄勝山弘治郎は昭和二五年一二月相道久吉が田中孝次郎から借り受けていた本件土地に隣接する抗告人の現に使用する土地を転借し、同地上に建物を所有し居住していたが、昭和三五年六月頃生国に帰るに際し抗告人は右義兄から右借地権と地上建物を買い受け、その敷地一三、一四坪約四三平方メートルをひきつづき田中孝次郎から賃借し、その後右建物を取りこわして現在の木造鉄板葺二階建店舗兼居宅を新築し、同所で飲食店を営んで現在に至つていること、抗告人はかねて右敷地と相手方居住の本件土地をあわせて一体として使用することを考え昭和四二年二月田中孝次郎から抗告人の右借地と本件土地を一括して買受け本件土地については田中孝次郎の相手方に対する賃貸人たる地位を承継したが、それ以来相手方からの本件土地の明渡を期待して、昭和二〇年代にとりきめられた地代のまゝで増額請求もしないで相手方の借地期間の満了あるいは地上建物の朽廃による借地権の消滅を心待ちし、現に右理由に基づいて相手方に対し訴訟提起の予定であることが認められる。

3  右認定の事実関係のもとにおいて、相手方の有する前記借地権の存続期間について特別の定めがあつたことが認められない本件においては、右借地権は三〇年の存続期間を有するものというべくその期間は数年のうちに満了に至るものといわねばならず、また、相手方の有する地上建物はすでに朽廃の域に達し、あるいは朽廃すべき時は近いものと考えられる右建物の朽廃による借地権の消滅も早晩免れがたいものといわねばならず、右期間満了時には相手方が更新を請求し申立人がこれを拒否して遅滞なき異議を述べることも記録上明らかである。その場合右拒否の正当事由の有無によつて右借地権が存続するか消滅するかが判定され、これが訴訟によつて争われることが必至の情況にあるものと認められる。

ところで、抗告人は右正当事由の存在を本件抗告理由書で縷々詳述するのみでなく、仮りに抗告人主張の事由のみでは右正当事由を十分に満たさない場合でも、抗告人がいくばくかの金員を相手方に提供することによつて右正当事由を補完することができる場合もありうることに考え至れば、相手方が希求する借地権の更新の見込みが確実であるとはいゝがたいものがある。そうすると、いま、相手方の借地条件を堅固の建物所有を目的とするものに変更すべき緊急の必要性の認められない本件において原決定のとおり従前の借地条件を変更することは附随処分により、抗告人へ金員を支払うことを命じても、なお抗告人、相手方間の利益の衡平を欠くものというべく、本件は相手方の申立を認容できない場合といわざるをえない。

以上の次第で本件申立を認容した原決定は失当であり本件抗告は理由があるからこれを取消し、本件申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(西岡悌次 富川秀秋 西田美昭)

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